みちする

駅の楽しみ方:
多可産品が8割以上
町おこしの中心地

2023.08.25

昔の日本映画に出てきそうな懐かしい「田舎の風景」。標高600~800メートルほどの山々が連なる中国山地に囲まれた田園地帯の兵庫県多可郡多可町には、そんな言葉がぴったりだ。
多可町の主要産業は農業で、石垣のある棚田は「日本の棚田百選」に選ばれているほど風情がある。また、酒米「山田錦」の交配に母本として使われた「山田穂」が発見された地域としても有名。このエピソードにちなみ、多可町の中心部にある道の駅は〈山田錦発祥のまち・多可〉と名付けられた。〈多可〉は2015年12月に開駅して以来、「山田錦」をはじめとする土地の名産品や「播州織」、ヒノキ製品などの伝統文化の発信拠点であり続けている。
町おこしを盛り上げている、そんな道の駅の施設をまずはぐるっとまわってみよう。

施設①特産品農産物直売所

道の駅の中心である〈特産品農産物直売所〉には、お米どころである多可町の魅力が詰まっている。商品棚に並ぶのは、兵庫県の地酒や味噌、醤油など、米の関連品。もちろん、「山田錦」からつくられた日本酒の特設コーナー。さらに、黒にんにくや鹿肉といった多可町の特産品の数々もある。
おみやげでは、「とりめし」に注目だ。播磨ではふ化してからおよそ100日間育てられた「播州百日どり」が数々の郷土料理に使われてきた。その中でも、引き締まった「播州百日どり」の甘い肉を米、野菜と一緒に炊き込んだ「とりめし」は地元で大人気。「とりめし」の素は、どの家庭でも手軽に播磨の味を再現できる便利な缶詰だ。
これらのローカルフードの品揃えには、休憩にぶらりと立ち寄ったドライバーたちも驚きの声をあげる。どれも田園地帯である多可町の特色がはっきり表れているので、ここを訪れた記念のおみやげにはぴったりだ。

多可町で盛んに生育されてきたヒノキが主な建材。壁や天井の美しい木目に目を奪われる。

施設②おむすびキッチン夢蔵

地元産の炊きたてのお米を握っておむすびにしてくれる、多可町民の台所&お食事処〈おむすびキッチン夢蔵〉が、道の駅の真向かいで営業している。 「山田錦」を使ったうどんや鹿肉の丼、ソフトドリンクなど、豊富なメニューで地元民やドライバーに愛されてきた。注文した料理は屋外のテーブルで食べることもできる。目の前の公園には、日本三大地歌舞伎のひとつ「播州歌舞伎」の記念碑があり、歴史的情緒が漂う。

「播州歌舞伎」の記念碑。現在でも地元の有志によって上演は続いている。

多可町では江戸時代、「播州歌舞伎」の原点である「高室芝居」が上演されていた。幕府からの締めつけが厳しかった江戸時代、庶民にとって芝居は貴重な娯楽だった。森に囲まれた舞台の上で繰り広げられる人間模様に、昔の人々はどのように一喜一憂していたのだろう?そんな情景に思いを馳せながら食事したり、休憩したりするのも旅の楽しみ方のひとつ。

店内には朝つくりたてのお弁当やのりまきが運ばれてくる。
黒豆や鹿肉など、特産品を生かしたおみやげが人気。

駅長の言葉

藤井施設長は「大きい道の駅と同じことをするのではなく、多可町の良さを伝えたい」と語る。

「小さい道の駅ですよね」。
道の駅の始まりから〈多可〉を切り盛りしている藤井英延(ひでのぶ)施設長は朗らかに笑った。確かに、敷地全体の広さは98平方メートル、駐車場は26台分。決して大きな駅とはいえない。ただ、「小さいけれども」と続けてくれた。
「ここには地元のいいものがたくさん集まっています。実に8割以上の商品、農産物が多可町産です。この土地で生まれるおいしいものをしっかり伝えています」。

玄関前には朝採れ野菜が並ぶ。多可町で農業を盛り上げている生産者の顔写真も添えられていた。

「この場所から多可町を盛り上げよう」という元気でいっぱいの〈多可〉。旅行の途中に立ち寄るだけではもったいない。ぜひ、目的地として訪れてほしい道の駅だ。

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