みちする

「三方よし」のお菓子づくりを!滋賀県高島市の〈とも栄〉〈NANASAN〉

2024.02.06 FOOD

琵琶湖の北西部、通称〈高島エリア〉は豊かな自然の中で育てられている、最近評判の「アドベリー」の産地としても知られている。(注1)
そんな高島エリアのおみやげどころ〈道の駅 藤樹の里あどがわ〉で、〈有限会社とも栄菓舗〉のお菓子の数々が注目を集めているという。〈とも栄 藤樹海道本店〉常務取締役 西沢勝仁(かつひと)さんに、その人気の秘訣をうかがった。

「我が社は昭和7年に高島市で創業しました。もう100年近く、この地でお菓子づくりをしています」。
勝仁さんはそう語った。長い歴史の中で、〈とも栄〉が辿り着いたポリシーは「和魂洋才(わこんようさい)」(※)。かつて本店ではどら焼きやようかんといった王道の和菓子をつくっていたが、二代目・勝(まさる)さんの頃からカステラやケーキなどの洋菓子も取りそろえるようになった。

(※)日本の伝統を大切にしながら、西洋的な知識や技術も柔軟に取り入れていくこと。

どら焼き「雲平」やでっちようかんは昭和から変わらない味で、根強いリピーターを獲得している。

店舗で働く二代目・勝さん、当代(三代目 勝治さん)夫妻である両親を幼いころから見てきた勝仁さんには、自然に跡取りの自覚が芽生えていったという。

3代目・勝治さんはお菓子でつくるオブジェ「工芸菓子」の名手でもある。店頭にその作品が飾られている。
「店の手伝いをするのが当たり前でした」と、勝仁さんは少年時代を振り返った。

5年間の修業期間を経て2015年、勝仁さんは正式に〈とも栄〉へと入社した。生まれ故郷でプロの菓子職人になった勝仁さんは「若いお客様にもうちのお菓子を知ってほしい」と考え始めた。
そこで勝仁さんは〈とも栄〉のお菓子と並行し、〈NANASAN〉という新ブランドを立ち上げた。現在の本店は〈とも栄〉と〈NANASAN〉、いずれの商品も並べている。両者の違いについて、勝仁さんはこう説明する。
「〈とも栄〉は地域とのつながりに重きを置いています。毎日のおやつ、お正月やお盆などの季節行事で食べていただけるお菓子が〈とも栄〉の中心です。一方、〈NANASAN〉はより新しい感覚のお菓子づくりを目指しています。僕がアイデアを出し、菓子職人でもある妻の有莉(ゆり)と一緒に商品化するまで改良していきます。〈NANASAN〉では若い層の目に留まるよう、キャッチ―なビジュアルやネーミングを工夫してきました。良い例が『MIO』ですね」。

小さな七角形の「MIO」は「アドベリー」のゼリーを中に閉じ込めた琥珀糖。外側のシャリっとした部分と、内側のもちっとしたゼリーの食感の対比がクセになる。味の面でも、「アドベリー」のさわやかな甘酸っぱさをしっかり堪能できる。

冬季限定でゆずフレーバーとミックスしたセットが販売されている。ゆずは高島市の山間部で採れたものを使っている。

「おかげさまで、『MIO』には若いお客さんから大きな反響がありました。高島市産の食材でつくったお菓子が話題になるのは、地元民として誇らしい気持ちです」。
そんな勝仁さんの高島市への思いが凝縮されたスイーツがある。「ベイクドようかん湖々菓楽(ここから) ふなチー」で勝仁さんは、高島市の伝統的な食文化であるようかんと鮒ずしを融合させた。
ようかんは琵琶湖西側の名物で、比良山系の清涼な水で育てられた小麦、大豆が原料になっている。その餡を熱して、より甘くなめらかにしたのが〈NANASAN〉オリジナルの「ベイクドようかん」だ。
その餡に、勝仁さんは鮒ずしの身と飯(いい)を練りこんだ。鮒ずしは塩漬けした魚と米でつくられる発酵食品。奈良時代にはすでに近畿圏で食され、「日本最古のすし」との説もある。鮒ずしには独特の酸味と塩辛さがあるため、スイーツの食材に使われるのはかなり珍しい。

ホールケーキのような円型の〈湖々菓楽 ふなチー〉。風味が濃厚なので、小さく切り分けて食べるのがおすすめ。

「ようかんと鮒ずしと聞いて驚く人もいますが、この2つの組み合わせが本当に抜群なんですよ。鮒ずしの風味をチーズのように味わってほしくて、略して『ふなチー』と名付けました」。
勝仁さんが言う通り、〈湖々菓楽 ふなチー〉では餡の甘みと、鮒ずしの発酵臭が絶妙にかみ合っている。口に入れた後の余韻が深く、スイーツとしても酒の肴としても絶品。この味の奥行きを生み出しているのは、1748年創業の高島市の名店〈魚治(うおじ)〉の鮒ずしだ。
「僕はそれまで鮒ずしの匂いが苦手だったんですが、〈魚治〉さんで食べたものは上品でまろやかで、目からうろこが落ちました。それ以来ずっと、〈魚治〉さんの鮒ずしが世界で一番おいしい食べ物だと思っています。『こんなにすばらしい発酵食品はお菓子にも使えるのではないか』とひらめいたことで、『ふなチー』はできたんです」。

〈湖々菓楽 ふなチー〉は2024年1月「高島ええもんグランプリ」に出品。見事、最高金賞を獲得した。
滋賀県産の大ぶりないちごと白あんを合わせた「おっきないちご大福」も〈NANASAN〉の看板商品のひとつ。

〈NANASAN〉のどのお菓子を見ても高島市産への強いこだわりが感じられる。
「和菓子の修行のため、東京で5年暮らした経験が大きいのかもしれません。都会生活を経験して、初めて故郷を客観的に見られるようになったんです。昔は地元に特別な思い入れはなかったんですよ。開発が進んでいなくて遊ぶところもないし、高速も走っていないし、不便だと感じていました。でも、今では『不便ではなくて手つかずなんだ』と、かえってその良さを感じているんです」。
高島市にはきれいな水流も広い農地も残っていて、野菜や果物が年中栽培されている。また、琵琶湖の眺めはここならではの美しさ。そんな湖西の山紫水明をお菓子づくりで広く伝えたいと勝仁さんは願う。
「うちのお菓子がおいしいのは、高島市の上質な農作物が材料だからです。〈とも栄〉や〈NANASAN〉で高島市の魅力を全国に広めたい。それが『三方よし』の仕事だと信じています」。

〈白髭神社〉の琵琶湖上の鳥居など、高島市には風情のある景観が「手つかず」のままで残る。
高島市ののどかな雰囲気を満喫してほしいという思いで、店内にはカフェスペースも設けられている。

勝仁さんが引用した「三方よし」とは、近江商人の理念を表す言葉。近江地方を拠点とした商人たちは戦国時代から江戸時代にかけて全国に進出し、〈伊藤忠商事〉や〈丸紅〉などの大企業の礎を築いた。その活動の中心には常に「売り手よし・買い手よし・世間よし」の「三方よし」の考えがあったとされる。家業を盛りあげることでお客さんも地元も幸せにしたいと奮闘する勝仁さんに、現代版近江商人の姿を見たように感じた。

〈あどがわ〉にも置かれている〈とも栄〉のお菓子。アドベリーのラスクやマドレーヌが好評だ。

(注1)関連記事↓
安曇川に特産品を!はなつむぎベリーファーム物語

新着情報一覧にもどる

ページトップへ