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合言葉は「毎年一年生」!奈良お米農家に聞くコンクールの醍醐味

2023.10.05 PERSON

奈良県奈良市にある〈道の駅 針T.R.S(以下、針テラス)〉。その敷地内にある農産物の直売所〈つげの畑 高原屋〉には、大和高原で採れる上質な野菜、果物がそろう。出荷者の一人、中山廣一(こういち)さんは市内の都祁(つげ)地区で米づくりをしている農家さん。中山さんの育てる米は「甘くておいしい」とお客さんに評判だ。コンクールでの受賞経験も豊富な中山さんの稲刈りを見学させていただいた。そして、おいしい米づくりの秘訣と原動力についてうかがってきた。

忙しい稲刈りの合間にお話を聞かせてくれた中山さん。

都祁地区は稲田に必要なミネラルをたっぷり含む土に恵まれている。さらに、高原地帯特有の昼夜の寒暖差が米粒の中にでん粉を閉じ込め、粘りや甘みを生み出すという、稲作には絶好の環境だ。学校教員だった中山さんは定年退職して以来、このエリアで14年間(2023年9月時点)も専業農家を続けてきた。現在、育てている米は「コシヒカリ」と「ミルキークイーン」の2種類だ。

自宅のそばにある中山さんの稲田。天候を気にかけながら、稲刈りはハイスピードで行われる。

5月後半に田植えを行い、9月後半に稲刈りをするのが中山さんの米づくりのサイクル。広い田の稲刈りには4日ほどかけているという。たいへん体力を消耗する仕事だが、コンバインを操縦する74歳の中山さんの動きは非常に俊敏で力強い。
「それはコンクールに出品するという目標があり、やる気がみなぎっているからですね」と中山さんは教えてくれた。
毎年秋から冬にかけて、日本各地で新米のおいしさを競うコンクールが開催されている。農業地域である都祁では、農家さんがコンクールに参加することは毎年の恒例だった。
「最初はご近所さんに誘われて、気軽にエントリーしたんです。でも、こだわりをもってすぐ真剣に取り組むようになりました。そのうちのひとつが『米・食味分析鑑定コンクール:国際大会(米・食味分析鑑定コンクール)』だったんです」。

「米・食味分析鑑定コンクール」とは年に一度、米・食味鑑定士協会と実行委員会が主催する国内外のお米農家を対象にした大きな大会だ。その部門は多岐にわたるが、もっとも難関とされているのは「都道府県・海外地域代表 お米選手権」。ここには例年、約6,500件ものお米農家さんがエントリーする。そのうち一次審査を通過できるのは約250件。二次審査から最終審査に進めるのは約50件。そして、最高の栄誉である「金賞」が贈られるのはたった20件前後。これは高校球児が地方予選を勝ち抜いて甲子園に出場するよりも高い倍率、超難関だ。中山さんはこの狭き門にチャレンジした。

コンバインで収穫されたもみはすぐ、自宅の乾燥機へと運ばれる。

全国の農業関係者が注目する大会だけあって、審査は厳しかった。一次審査すら通過できない年が続き、中山さんは思い悩んだ。
「いいものをつくっている自信があったので、鼻っ柱を折られた思いでした。しかも、審査は食味分析計という機械で客観的に評価されているから文句も言えません。落選するたびにがっかり、『来年こそ!』が続いていました」。

乾燥機にもみを通している様子。乾いたもみは保存が効くうえ、もみがらを取り除く際も砕けにくい。

中山さんはあきらめなかった。教員時代に培った向学心と計画性で、自らの米づくりに改良を重ねていった。失敗を分析し、人の意見を聞き、新しい手法を取り入れた。群馬県にいる米づくりの大先輩に会いに行き、そのノウハウを教わったこともある。
試行錯誤の末に、中山さんは有機栽培への転換を決意した。化学肥料を使うのを止め、代わりに発酵菌を土にまいて稲田をつくるようにした。この決断が功を奏し、ついに中山さんは2018年の第20回「米・食味分析鑑定コンクール」で最終審査へと進出した。二次審査通過のファックスを確認した瞬間に、中山さんは『来たぞ!』と雄叫びをあげたという。

もみがらを取り除いた米が玄米。ここからぬかと胚芽を取り除くと精米(白米)になる。
〈高原屋〉に出荷された中山さんの精米。新米の季節には中山さんのリピーターが店頭に駆け付ける。

念願のファイナリストになった中山さんが印象深かったのは、最終審査の前夜に催された農業関係者の交流会の様子だった。
「会場で何人かが、自信満々の笑顔で胸を張っているんですよ。よく見ると、スーツの左胸にリボンがついている。その人たちは最終審査の進出者なんです。リボンをつけている農家さんには会場中から尊敬のまなざしが向けられます。同業者に認められたあの時間こそが、コンクールを勝ち抜いてきた一番のご褒美だといえるんじゃないでしょうか。僕もファイナリストになった年の交流会では、肩で風を切って歩いていたような気がします(笑)」。

機械での判定と「米・食味鑑定士」の判断、両方によって行われた厳正な最終審査の末に、中山さんは見事、この年の「特別優秀賞」に輝いた。また同年、中山さんは「第15回お米日本一コンテスト in しずおか」でも「最高金賞」を獲得する。東北や北陸地方といった有名な米どころに混じって、奈良県のお米農家さんがコンクールで高評価を得たのは大きな快挙だった。

自宅に飾られたコンクールの賞状は中山さんの誇りだ。

中山さんは大舞台を経験したことについて、「トロフィーより大事なものを知った」と振り返った。「コンクールでは、全国の一流農家さんたちと話せたことが財産になりました。驚いたことにみなさん、『一年生』が合言葉だったんです。『上手な米の育て方を見つけたと思っても、天候次第ですべてが台無しになってしまう。去年成功した方法が今年も通用するとは限らない。僕たちは毎年米づくりの一年生なんだ』と。だからみなさん、収穫が終わるたびにまた、ゼロから学び直すんだとおっしゃいます。それを聞いて、自分も見習おうと思いました」。

かつて学校の先生だった中山さんの合言葉が「毎年一年生」。それほど米づくりは難しい。難しいからこそ、中山さんは「のめりこんでしまったのだ」と言う。
「簡単にできることはつまらないでしょう。毎年、新鮮な気持ちで働けている今が幸せですね」。
中山さんにとってのコンクールは、「毎年一年生」として感じる純粋な興奮と、新鮮な出会い、そして農業についての深い学びを提供してくれる、特別な舞台なのだ。

新米コンクールに遊びにいこう!

中山さんが直近で照準を定めているコンクールは、〈道の駅 針テラス〉の農産物直売所〈つげの畑 高原屋〉で10月22日(日)開催予定の無料試食会「大和高原のおいしいお米を食べる会」だ。当日は、〈高原屋〉に出荷している大和高原のお米農家さんたちが、自身で炊いた新米を店舗に持ち寄る。それらを一般のお客さんが食べ比べ、一番おいしかったごはんに投票する。制限時間内でもっとも多くの票を集めた農家さんが称えられる。
「農家がふだん食べている炊き方で競うので、他のコンクールとは違った面白さがあります。毎年開催していて、今年こそは負けられないと意気込んでいるんですよ」と中山さんも気合十分だ。

秋まっさかりに、奈良県を代表する米どころにある道の駅で繰り広げられるコンクール。ぜひ、農家さんたちが米にかける熱い思いを間近で確かめに来てほしい。

大和高原のおいしいお米を食べる会:情報

【日時】2023年10月22日(日) 午前11時(予定)~14時(予定)

【会場】〈道の駅 針T.R.S(テラス)〉敷地内 〈つげの畑高原屋〉店内

【入場料】無料

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