みちする

水と肥料にこだわり
北神のすいか農家

2023.07.19

〈道の駅 神戸フルーツフラワーパーク大沢(以下、神戸FFP)〉の農産直売所〈ファームサーカス・マーケット〉に置かれた、すいかの数々。六甲山系のきれいな水が育んだ果物は、〈神戸FFP〉の夏の風物詩だ。その中でも一際、大きくて目を引くすいかがあった。
「これは80歳を超えたおじいさんが育てているんですよ。味もとっても甘くてお客様に好評なんです」とスタッフさんが教えてくれた。気になる情報を確かめに、北神戸(通称:北神)の淡河町で60年以上もすいか栽培を続けてきた石井初美さんの自宅と畑にうかがった。

石井さんと真夏の旬を迎えたすいか。へたがへこんでいるものほど、中身が熟しているのだとか。

「すいかの味は畑で決まる。肥料がすべてやね」。
そう語る石井さんは有機栽培にこだわり、畑にまくのは無添加の油かすや魚粉、骨粉のみ。それらの肥料は60年間ほとんど同じ。そうやって育てたすいかは道の駅に出荷したり、作業場も兼ねた自宅の直売スペースで売ったりしてきた。
「どんどん肥料の値段も高くなっていくわ(笑)」と苦笑いしながらも、安い肥料に切り替えはしない。そこにベテラン農家のこだわりがある。
「たまに、外ですいかを食べたらがっかりすることがあるねん。うちのは人がそうならないようにしたい」。

石井さんの作業場ではすいかと一緒に玉ねぎも販売されている。天井に吊るすのは、乾燥させて長期保存するための農家の知恵。

石井さんがすいか畑を案内してくれた。神戸市といえば都会のイメージが強いが、淡河町は農業地帯。〈神戸FFP〉から車で10分ほどの畑で、石井さんはピーマンやトマトなどの夏野菜やすいかを育てている。7月中旬からお盆ごろまでの約1カ月、石井さんは毎日この畑に通うという。良質なすいかを出荷するために欠かせない作業がたくさんあるからだ。

連作障害を防ぐため、石井さんは4カ所の畑に分けてすいかを育てているとか。畑を歩く足どりは軽く若々しい。

まず、すいかはほとんどが水分でできている農作物なので、水の管理は生命線。畑に流れている農業用水が止まっていないか、全体に行き届いているかをこまめに確認しなければならない。次に、小さな実の摘果。すいかの養分が分散しないよう、形が悪い実は早めに摘んでしまう。そうすることで養分が集中し、すいかの1個1個が大きく甘く育つ。石井さんの畑では1株につき4個までに実の数を調整するのが目安。これ以上の数になると、すいかの実は小さくなり味もぼんやりしてしまうのだとか。
アライグマやカラスなどの害獣、害鳥対策も必須だ。周りに張りめぐらされたネットをかいくぐっては畑を荒らしていく動物たちに、北神の農家は例年悩まされ続けてきた。

アライグマに襲われた後の畑。どんなに気をつけていてもひと夏に30個以上のすいかが犠牲になってしまう。
石井さんの野菜はどれもジャンボサイズ。丁寧な栽培で養分をたっぷり吸い上げてきた証。

たいへんな仕事の原動力になっているのは、リピーターの存在。夏になると、道の駅や石井さんの直売所におなじみのお客様が訪れるという。名前も住所も知らない人たちが、毎年「おいしい」と喜んですいかを買っていく。その笑顔が石井さんを支えている。すいかは重くて、お店から家に持ち帰るのもひと苦労。そうまでして買ってくれたお客様の期待に応えたいと、石井さんは妥協しないすいか栽培を心がけてきた。
「遠くから買いに来てくれるお客さんもいるし、まだまだ頑張りたい」。
そう力強く語った石井さんのすいか、ぜひとも〈神戸FFP〉でチェックしてみてほしい。

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