みちする

駅の楽しみ方:
開拓精神が宿る
奈良県最大の道の駅

2023.09.29

奈良市東部にそびえる笠置山地、宇陀山地、室生山地。これらの山々の連なり「大和高原」は、神話の舞台として有名だ。「古事記」「日本書紀」には「宇陀」という名称が登場しており、初代神武天皇がこのあたりで敵勢力と戦いを繰り広げたとの記述がある。
そんな神話ゆかりの地である大和高原の一角、奈良市針町。ここを通る名阪国道「針IC」に隣接して建つ〈道の駅 針T.R.S(以下、針テラス)〉は、山中を運転するドライバーたちにとって大切な休憩地だ。516台分の駐車場と約6.3ヘクタールの敷地面積はいずれも奈良県で最大。山道を走ってきた緊張が一気に吹き飛ぶような開放感を味わえる。

また、この場所は京阪神方面から、桜の名所・吉野山、「日本国民の総氏神」こと伊勢神宮、和歌山のパワースポット熊野古道などへと向かう道中に位置でもある。そのため、観光のおみやげどころとしても愛されてきた。売り場をのぞくと、地元の農産物や奈良・三重の銘菓、屋台グルメが揃っている。
さらに、山道をツーリングするバイカーたちにとっても〈針テラス〉は重要な補給地点だ。「バイカーたちの聖地」と呼ばれる〈針テラス〉には、駅内でバイク用品店〈KUSHITANI PERFORMANCE STORE 針テラス店〉が営業している。
ちなみに、駅名の「T.R.S」はもともと「Tea time Resort Station」の略なのだとか。ドライバーもバイカーも観光客もくつろげるリゾート、〈針テラス〉。その施設を詳しく紹介。

〈針テラス〉の施設①農産物直売所

〈針テラス〉にある直売所は2つ。まずは、地元の朝採れ野菜、果物にこだわった〈とれしゃき市場〉だ。温州みかんや梅など、奈良市の名産品がここには並ぶ。これらの作物は農業がさかんだった〈都祁村(つげむら)〉の名残。〈都祁村〉は2005年、奈良市に編入されたが、今でも大和高原の農地で農業を続けている地元の人たちは多い。また、わらび餅やお茶、ちりめん山椒といった、奈良、伊勢方面の名店の食品ももりだくさんだ。

次に、ハイクオリティな高原野菜やお米がメインの販売所〈つげの畑 高原屋〉。ブランド農家さんがつくったなすやトマト、フルーツなども集められている。毎年秋に開催される新米の試食会をはじめ、農産物に関する楽しいイベントが目白押しだ。
〈高原屋〉の人気商品は奈良市内で養鶏場を営む〈吉本エッグファーム〉の産みたて卵。自然配合肥料、抗生物質等薬品を含まない餌だけで育てた鶏が産んだおいしくて体にもやさしい卵には、売り場で特集コーナーが設けられている。卵焼きにしてもゆで卵にしても絶品だが、おすすめは生での卵かけごはん。濃厚な黄身の風味、白身の弾力を存分に堪能できる。

〈高原屋〉の隣にある〈IBURI KOBO〉は〈吉本エッグファーム〉の卵を使った、卵かけごはんの専門店だ。

〈針テラス〉の施設②ノースリリィ

地域の特産物、おみやげが並ぶ建物〈ノースリリィ〉。そのショップにはせんべいやまんじゅうなどの奈良産の和菓子、吉野名物の葛餅、伊勢名物の赤福餅などがずらり。また、奈良県桜井市を中心とした三輪地方でつくられている、各社の「三輪そうめん」が並ぶ。 三輪地方では奈良時代に唐から「索餅」が伝来。小麦粉と米粉を混ぜてつくる索餅は時代と共に形状が変化していき、やがて現在のそうめんになったとの説もある。そのため、三輪地方は「日本のそうめん発祥の地」と称されてきた。手延べ法でつくられる、茹でた後でも形が崩れにくい「三輪そうめん」は日持ちもするのでギフトにぴったり。

さらに、〈ノースリリィ〉のフードコートは、朝食、ランチに利用されている。丼ものやカレー、ラーメンやうどん、そばなどメニューは多彩だ。

フードコートでは午前中限定で、お得な朝食メニューも登場する。

トイレや仮眠などのちょっとした休憩で〈針テラス〉に寄ったドライバーから好評なのは、〈ノースリリィ〉玄関周辺に並んだ屋台の数々。煎餅、かまぼこ、餅やソフトクリームといった屋台グルメは、おやつや軽食にぴったり。テイクアウトして車中でも食べやすい。いずれも奈良県や三重県の名店の支店で、これら地域のおいしいものを〈針テラス〉でまとめて買えるのはうれしい。

辛口から甘口まで、いろいろな味のせんべいを選べる〈伊勢路 煎餅本舗〉。
和歌山県・熊野灘の地魚100%使用にこだわる〈かまぼこの店 新兵衛屋〉。

針町の「針」は、もともと「墾(はり)」だったとの説がある。「開墾」「墾田」などの言葉に使われる「墾」は、「土地を耕してひらく」という意味を持つ。道の駅〈針テラス〉の施設にある、たくさんの生鮮、加工食品を生み出したご当地の持つバイタリティー。そして周辺地域の品々を積極的に取り揃えて、来る人に提供しようというサービス精神。それらは大和高原を開墾し、農業地域の礎を築き、さらには流通の拠点として栄えさせた古代人たちのたくましさを今に伝えているように思う。「まち」や「むら」をつくりだした熱意がいかに強大で普遍的なのかを、〈針テラス〉の広さと賑わいが教えてくれた。

〈中央休憩所〉はここで最初にできたコーナー。奈良市の観光スポット・イベントが紹介されている。
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