みちする

ひと:
人呼んで「駅長」
戸惑いから責任感へ

2023.06.29

〈なち〉で責任者を務める中西亨さん。
ふだんは那智勝浦町役場の農林水産課で主任を務めながら、
道の駅の様子にも気を配っている。
いつしか、彼のひたむきな姿は地元民や同僚の心を打つように。
本来は〈なち〉に「駅長」という役職はないものの、
中西さんは親しみを込めて「駅長」と呼ばれているそう。
そんな「駅長」に今の立場への率直な思いを語ってもらった。

「昨年(取材は2023年3月)の人事で、農林水産課に異動してきたんです。そのときにいきなり、君は道の駅の担当ね』と上から言われて」。
そう言って、中西さんは苦笑いを浮かべた。同僚に「駅長」というあだ名で呼ばれるようになったのも、異動が決まってからのことだという。

中西さんは43歳(2023年3月時点)。ほかの道の駅の「駅長」と比べれば、まだまだ若手。

「最初は言われるがまま、道の駅で働き始めたという感覚でしたね。戸惑いましたよ。〈なち〉で買い物をしたことはありましたが、道の駅の経営なんて何もわかりませんでしたから。でも、コロナ禍で観光客が減っている時期でしたし、『なんとかしなければ』という責任感が芽生えてきたんです。すぐに経営状況を見直して余計なコストを削減するなど、必死になりました」と中西さんは語る。

道の駅で働くうち、中西さんはこの場所に思い入れを抱くように。中西さんが思う〈なち〉の各施設の魅力とは?
「まず、〈農産物直売所〉の豊富な品揃え。鮮魚やみかんなどの名産品をたくさん置きつつ、お客さんが面白がってくれるような商品も常に探しています」。

おいしさはもちろん、並んでいる姿もきれいで置くようになった〈伊藤農園〉のみかんジュース。
〈大漁〉は地元の大人たちの行きつけ。創作メニューが道の駅でも商品に。

次に、〈那智駅交流センター 丹敷の湯〉の魅力について。
「本物の温泉に浸かれるところじゃないかなと思います。勝浦には170以上の源泉があるんですが、道の駅はそのうちのひとつからお湯を引いてきています。場所もいいですよね。海水浴の後でも、熊野古道を歩いた後でも立ち寄れるので」。

〈熊野那智世界遺産情報センター〉で注目してほしい部分はどこでしょう?
「『那智山宮曼荼羅(なちさんみやまんだら)』です。展示しているのは複製品なんですが、実物よりもやや大きいんですよ。だから、描かれている人々の仕草や表情をはっきりとご鑑賞いただけます。それに、ディスプレイで伝統行事の様子を映し出しているのも、お客さんからは好評です。那智の扇祭りの迫力は映像でないと伝わりにくので、観光客の誘致につながっていると思っています」。

展示をきっかけにして、買い物客も熊野古道の存在を知ることができる。

中西さんにどうしても聞いてみたかったことがあった。〈なち〉では、アットホームな雰囲気が印象的だった。たとえば、中西さんとお話していると、気さくに別のスタッフさんが寄ってきてくれる。この和やかさの源は?
「人と接するのが好きな人が多いからじゃないでしょうか」と中西さんは考える。
「〈なち〉のスタッフはみんな人当たりがいいんです。だから、新しく入って来た人もここを離れたくなくなるみたいです。10年以上働いている人もいますね。勤務年数が一番短い人でも3年くらい。みんな長きにわたって道の駅を支えてくれています」。

職場の風通しの良さが、道の駅のムードを穏やかなものにしている。

働く人たちの和気藹々とした空気感に引き寄せられるのか、「なち」にはふらっとやって来る人が多いそう。
「観光客が『こんなところに温泉があるんだ』と驚いて、入浴していくこともあります。ファミリーのお客さんも多くなっていますね」。
最後に、道の駅で今後叶えたい目標も伺った。

「町の外からも人が集まる場所にしたい」と中西さんは未来を見据える。

「コロナ禍の間は大々的に集客を謳うことが難しい状況でした。温泉の営業時間も短縮せざるをえませんでしたし。ただ、これからはどんどん人を呼んでいきたいです。道の駅を会場にしたイベントも企画したい。いつか、道の駅でお祭りができたらいいですね」。

確かに、海が見えてアクセスも便利な〈なち〉は、イベントをするには絶好の場所。近い将来、「駅長」たちの夢が叶って、那智勝浦町の新たな風物詩がここに誕生したらどんなに素敵だろう。そっと行く末を願いつつ、これからも繰り返し〈なち〉を訪れる楽しみにしていきたい。

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