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「龍神材」で家具を手づくり!〈道の駅 水の郷 日高川 龍游〉の工房〈G.WORKS〉

2024.04.17 PERSON

和歌山県田辺市龍神村地域は、その面積の大半が標高500メートル以上の山岳地帯である。このエリアでは、18世紀末から200年以上にわたって広大な森林を生かした林業が発展してきた。やがて、スギやヒノキを加工した上質な木材「龍神材」が、建築関係者の間で評判になっていく。
一般的には建築材料として知られる「龍神材」で、あえて家具をつくっている工房が龍神村地域にある。〈道の駅 水の郷 日高川 龍游(りゅうゆう)〉内の〈G.WORKS(ジーワークス)〉だ。

〈G.WORKS〉の概要

阪和道を〈有田IC〉で下り、山道を走ること約1時間。紀伊山地の間をぬって流れる日高川のほとりに、〈道の駅 水の郷 日高川 龍游(以下、龍游)〉と〈G.WORKS(ジーワークス)〉が在る。
〈G.WORKS〉は山小屋のような木造の建物で、「ショップ」「工房」「カフェ」「チェンソーアート展示場」の4スペースに分かれている。

〈G.WORKS〉の「G」は「GREEN」の「G」。新緑のように常に若々しい気持ちで、初心を忘れないという決意が込められている。

① ショップ

入り口を開けてまず目に飛び込んでくるのが、「龍神材」でできた椅子やテーブル、遊具などを置くショップだ。その中でも、〈G.WORKS〉のロッキングチェアは座り心地がいいと人気。

② 工房

ショップの裏には工房があり、職人さん4人が日々家具づくりに精を出している。その工程の8割以上が手作業。職人さんがノミやノコギリ、カンナを使い、座り心地を確かめながら家具に少しずつ手を加えていく。

③ 〈WOOD STOCK CAFE(ウッドストック・カフェ)〉

〈G.WORKS〉が営む〈WOOD STOCK CAFE〉。コーヒーやソフトドリンクを飲みながら、木の匂いのする空間でゆったりと過ごせる。

④ チェンソーアート作品展示場

地元の芸術家・城所(きどころ)ケイジさんの作品展示場。「チェンソーアート」とは、丸太を削りあげてつくりあげる繊細さと大胆さが共存した芸術だ。

龍神村で〈G.WORKS〉が立ちあがるまで

松本泉代表に〈G.WORKS〉誕生までの経緯をうかがった。
「私は龍神村地域の出身で、大阪で会社員をしていました。ただ、30年くらい前でしょうか。『自分に合った仕事で、もっとやりがいを感じたい』と願うようになったんです。もともと趣味で絵を描いており、ものづくりの世界にも惹かれていました。そして思いきって脱サラし、訓練校に通って木工を一から学びました」

松本泉代表は「脱サラするまで家具づくりはやったこともなかった」という。
ショップにアパレルやアート作品が数多く展示されているのは、「アーティストを応援したい」という代表の意向による。

訓練校のカリキュラムを修了した松本代表は、木工職人や芸術家の移住を支援する村おこしプロジェクト「龍神国際芸術村構想」に応募。故郷に帰ってきて家具づくりに励んだ。やがて、龍神村が『美しい村づくり構想』を立ちあげ、松本代表に声がかかった。
「龍神村の林業をPRするために、道の駅と家具工房をつくることになったんです。私が管理責任者として〈G.WORKS〉に招かれたのが1997年のこと。それからずっと、この場所で『龍神材』を使った家具づくりをしています」
2005年、龍神村は近隣地域と合併し、(新)田辺市の一部になった。「龍神材」は龍神村の名前を受け継ぎ、林業の歴史を伝える貴重な木材である。

家具づくりで大事にしていること


なぜ建材である「龍神材」を家具に使おうと考えたのだろうか。その理由は、〈G.WORKS〉の経営理念に込められている。〈G.WORKS〉が家具づくりで大事にしていることは「紀州スギを生かす」「無垢の心地よさ」「木目の味わい」の3つ。
まず、「龍神材」にもなっている紀州のスギはやわらかい感触が魅力。体にフィットする椅子を志す〈G.WORKS〉の活動に、紀州スギの特性はぴったりとはまった。

背もたれに使用されている紀州スギ。人の体に沿ったなめらかなラインに加工されている。

次に、丸太から切り出したままの状態である「無垢」の木材へのこだわり。木本来の肌ざわりを伝えるために、〈G.WORKS〉では触れているだけで落ち着くといわれる「龍神材」を選んだ。
そして、木目の多様性が「龍神材」にさらなる趣きを与えている。力強かったりシャープだったり、無垢の「龍神材」は一つひとつの木目が個性的。それらからつくられる一点ものの家具は、経年変化さえも使う人の思い入れにつながる。

最初は淡白な「龍神材」だが、時間が経つほど飴色や黄金色に変化していく。

やわらかい「龍神材」を使った家具づくりでは、慎重に手作業することが必要だ。そのため、〈G.WORKS〉で職人さん1人が仕上げられる椅子の数は多くて月5、6脚。じっくり手間をかけるのは、家具を使う人に伝えたい思いがあるからだ。松本代表はこう語った。
「木そのものを好きになってほしいんです。本物の木材は香りや肌ざわりが格別ですから。『龍神材』でできた〈G.WORKS〉の家具を通して、木材の種類や特徴にも関心を持っていただけるとうれしいです」

「龍神材」についてもっと知りたい

松本代表が愛する「龍神材」。その歴史と魅力を詳しく知るために、「龍神村森林組合」を訪ねた。ここは「苗木から住宅まで」のスローガンのもと、龍神村地域の林業を担う団体だ。

「龍神村森林組合」の共販所にて、「龍神材」になる前の丸太の説明をする古久保さん。

総務課の古久保さんに、まずは「龍神材」の成り立ちを聞いた。
「昔の龍神村では、ほとんどの村民が山林を所有していました。だから、土地を有効活用して林業に従事する人が多かったのです。昭和40年にこの組合ができてからは設備を見直し、本格的に地域をあげての林業が発展していきました。そして平成22年、『龍神材』はエリアを象徴するブランド木材として地域団体商標に登録されました」
「龍神材」の質が高いのは、木が美しく育つのを待って伐採するからだ。伐採時の樹齢は60歳を超えることも珍しくない。(※)寒暖差が激しい龍神村地域の気候も木目に影響している。このエリアで育ったスギやヒノキには、冷帯特有の幅の狭い年輪と、温帯特有の間隔があいた年輪の両方が刻まれていく。その年輪の組み合わせが、「龍神材」の木目に独特の風情をもたらしている。

(※)標準伐採期齢は、「スギ35歳」「ヒノキ40歳」といわれる。

スギの切断面。年輪の間隔が一定ではなく、狭くなったり広くなったりしている。

林業に誇りを持つ龍神村地域には「赤ちゃんのときに植えられた木は孫ができるまで切るのを待つ」という言葉もあるそう。人の一生に例えられるように、何十年もかけて育てられた「龍神材」の良さを大切にして、〈G.WORKS〉はこれからも家具づくりを続けていく。

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