ひと:
道の駅から新名物を
商品開発のドラマ
2023.09.09
〈道の駅 あいおい白龍城〉には、この場所を心から好きで働く人がいる。
また、地元と力を合わせながら、相生市を盛り上げようとする人もいる。
現場の人が語ってくれたのは、現在の売り場の陰にあるドラマティックな思い出だった。
〈あいおい白龍城〉の利根克典支配人はエネルギッシュな活動で道の駅に尽くしてきた。たとえば、プライベートで訪れた飲食店に魅力的な商品を見つけたら後日、メーカーと交渉して道の駅にも置けるようにしたという。
このように奮闘する利根支配人の原動力とは?
「長くこの施設を見てきたから思い入れがあるんですよ。そもそも私は市役所で働いていたので、〈あいおい白龍城〉が生まれる際にも立ち会ってきたんです」と、利根支配人は答えてくれた。彼が見てきた相生市の姿は、決して順風満帆な時期ばかりではなかった。
「昔の相生市は造船の町で、昭和中期まではとても栄えていたんです。でも、昭和61年に合理化の波が押し寄せて、造船所でも従業員の多くがリストラに遭いました。その頃から市としても、財政源としての観光事業と真剣に向き合わなくてはならなくなりました。いろいろなアイデアがありましたが、最終的には『ペーロン祭』をモチーフにした施設を作り、そこに温泉も掘ろうという案が採用されたんです。平成9年に複合型の観光施設ができ、平成13年には道の駅として登録されました」。
相生市には他に温泉地がなかったこともあり、〈あいおい白龍城〉は新たな観光施設として市内外から好評を博すようになる。利根支配人自身も平成9年のオープン時から3年間、市役所から〈あいおい白龍城〉に出向して勤務した。再び市役所に戻った利根支配人はそのまま定年退職を迎えゆっくりと暮らすはずだったが、上層部から思わぬ打診を受ける。
「道の駅で支配人を務めてほしいといわれたんです。赤字が続いていたし、大変な仕事だとわかっていましたが、若いときに心血を注いだ場所なので思い入れがあったんでしょうね。話を受けることにしました」。
そして、令和2年、利根支配人は〈あいおい白龍城〉に帰ってくる。感慨に浸る暇もなく、この場を盛り上げるため、次々と新しい事業に着手していった。彼の再抜擢はまさに、こうした積極的な動きを期待されてのことだった。
「景観が美しいので、道の駅でやりたいことがいろいろ浮かんでくるんです。施設面では、今年ウッドデッキを全面的にリニューアルしました。SNSに映えるビジュアルは、観光客や若者に楽しんでもらえると思います。直売所も建て替えたいし、まだまだやるべきことはたくさんありますね」。
そうやって利根支配人たちが守ってきた歴史を持つ道の駅。一方で、未来に向けた取り組みも。
〈あいおい白龍城〉では新しい世代とのコラボレーションも盛んだ。「特産品売場」の一角を占める「あいおい結び」のコーナー。ここでは相生市内の特産品がピックアップされている。数々の名産品に混じって存在感を放っているのは〈県立相生産業高校〉と道の駅が共同開発した食品たちだ。
「高校の教頭先生に直接私からお声がけいたしました。地元に密着した個性ある学校なので、一緒に何かやりたいという思いがありました」。
そう語るのは、〈あいおい白龍城〉総務課の安村真一さん。安村さんの誘いをきっかけにして、相生産業高校は広報部〈ティピアス〉を立ち上げ、道の駅と交流を持つようになる。やがて、商工会議所の補助金を受け、道の駅と<ティピアス>は地元企業も巻き込みながら商品を一から企画開発することになった。多いときは一年で8個もの新商品が完成し、そのすべてが道の駅の売り場に並べられたという。さまざまなオリジナル商品の中でも、安村さんに特別な思い出があるのは、牡蠣を原材料にした、「ふりカキ」だ。
「ふりカキ」は、鰹節と乾燥牡蠣に8種類の野菜と4種類の海の幸のフレーク、ごまを混ぜたふりかけ。それぞれの具材と牡蠣エキスが合わさることで豊かな味わいになり、白ごはんにもおすすめ。調味料や保存料、香料を含まず、健康にも配慮された一品だ。
安村さんは〈ティピアス〉が「ふりカキ」を生み出すまでの試行錯誤を、道の駅の担当者として見守ってきた。だからこそ、「ふりカキ」の反響には驚きとうれしさの両方が押し寄せてきたという。
「『ふりカキ』が2018年の『商業高校フードグランプリ』で大賞を受賞したんです。全国から39校が参加したうえでの受賞だったので、本当に驚きました。常連校もいる中、〈ティピアス〉は初出場でしたから。東京で受賞に立ち会った生徒は本当に腰を抜かしてしまいました」と、当時の衝撃を振り返る安村さん。しかし、それだけでは終わらなかった。「ふりカキ」はその年の西播磨を代表する食品に与えられる、『西播磨フードセレクション2018」でも最高の栄誉、「グランプリ」を獲得したのだ。一般企業や老舗メーカーも応募するコンテストでも、「ふりカキ」は高く評価された。「栄養価の高い牡蠣エキスを有効活用した」のが、グランプリの受賞理由だったという。
「さすがにここまで行くのかと驚きを隠せませんでした」と、結果を聞いたときの率直な感想を伝えてくれた安村さん。それ以来、「ふりカキ」は〈あいおい白龍城〉でも根強い人気を集めてきた。「ふりカキ」の背中を追いかけるようにして、県内の高校は次々と、食品コンテストに挑戦し始めたとか。道の駅で生まれた商品が、10代に夢と目標を与えたのだ。
高校とのコラボ食品に限らず、〈あいおい白龍城〉にはポン酢、お酒などのオリジナル商品が多い。ショーケースをのぞきながらそこに関わった人たちに思いを馳せてみると、買い求めたおみやげにも自然と愛着が湧いてくる。そんな、まさに「おみやげ話」付きのおみやげに出合えるのも道の駅ならではだ。