みちする

ひと:
四季の郷公園の人々
あたたかなHOME

2022.12.12

ごはんがおいしく景色が綺麗なのは、道の駅の楽しみ。
ただ、それらの魅力を作り出しているのはやはり、人の力かもしれない。
四季の郷公園はなんだか実家に帰ってきたような優しい気持ちになれる。
その理由は、関わっている人の思いにあった。

公園内を散策中、副駅長の李野さんが作業中の男性に声をかけた。
「今、取材が来られているんですよ。写真を撮らせてもらえませんか?」
男性は照れて大きく手を振る。彼は公園の樹木の管理人さん。軽トラックの荷台には剪定された、大量の木の枝が積まれている。25.5ヘクタールもの敷地で毎日、剪定や草刈りをするたいへんさは想像もつかない。
代わりに同僚のお二人が写真撮影に応じてくれた。李野さんが笑顔でお礼を言って、管理人さんたちとお別れする。ほんの2、3分のやりとりの中に、お互いの信頼関係がにじみ出ていた。ここからは四季の郷公園を守り育む人たちを紹介したい。

日焼けした顔が凛々しい管理人さんたち。貫禄の立ち姿にほれぼれ。

まずは今回、みちするに四季の郷公園を案内してくれた李野高康さん。李野さんはもともと、旅行会社からの出向で四季の郷公園へとやって来た。多くの会社が手を組んで道の駅のリニューアルに乗り出した中、李野さんには旅行会社での経験を生かした集客が求められていた。懸命に働いているうち、李野さんの四季の郷公園への思い入れはどんどんふくれあがっていく。ついに李野さんは「副駅長の仕事に集中させてほしい」と会社に伝えた。熱い気持ちは認められ、李野さんは道の駅で地域とのつながりを深めていく。

誰よりもFOOD HUNTERを体現している李野さん。手慣れた火起こし。

BBQ場でドラム缶のリユース方法をテスト中。試行錯誤の様子。(このドラム缶風呂は取材後、お客さんも体験可能になりました) 

四季の郷公園の仕事の面白さは何でしょう?
「とにかく広いので、なんでもできるのがいい」という答え。
椿が実をつけるとすぐさま、李野さんたちはその実を使ったオイルを作るワークショップを企画した。栗の木を見つけたら、実を拾ってスイーツの素材にした。ドラマティックな毎日!途切れないアイデアのきっかけはいつも、この公園の名の通り、四季折々の魅力的な自然。慣れた手つきで炎の囲炉裏に薪をくべながら、李野さんは四季の郷のリニューアルに関わってきた仲間の話をしてくれる。

李野さんが四季の郷公園の「キーマン」のひとりに挙げてくれたのは、和歌山県で数々の施設のリノベーションプロジェクトに携わってきた、空間プロデューサー 源じろうさん。地元の木材を活かした「火の食堂」のリノベーションを手掛け、中心に大木を据えたのも彼のひらめきだそう。食堂では小学校の椅子がリサイクルされ、中央の大きなダイニングテーブルは建材を再利用。一画には絵本や写真集の並んだ図書スペースが。地元の木材や歴史を活かしたインテリアは、はじめてここへやってきた人にも懐かしさを感じさせてくれる。

天窓まで届きそうな大木は火の食堂の象徴だ。

火の食堂のワクワク感は源じろうさんプロデュースによるところが大きい。

バイタリティーがあふれる場所には、新たな面白い人も引き寄せられてくる。アレン・ドミニクさんは2006年にイギリスから来日した大工であり家具職人。海外で出会った妻・衣美さんとの結婚を機に和歌山県で活動するようになった。そして、源じろうさんからの依頼で、アレンさんは四季の郷公園の焼所で石窯を手掛けることになる。しかし、いくら家具職人さんとはいえ、いきなり窯作りなんて戸惑いはなかったのだろうか?

取材中もずっと笑顔だったアレン・ドミニクさん。

「日本での最初の仕事が、友人のために陶芸窯を作ることだったんです」
なんと、アレンさんは四季の郷公園の前にも窯を作っていた!
「それを見に来た源じろうさんと知り合いました。僕はピザ窯も作っていたので、源じろうさんは石窯を依頼してくれたのだと思います」

数々の窯を手掛けてきたアレンさんにとっても、パンの石窯は特別だという。その良さについて、アレンさんは独特な表現をしてくれた。
「英語でいうところの“HIGH MAINTENANCE”。つまり、費用が高いし手がかかる。だから窯でパンを焼く人は少ないんです。でも僕は石窯が好き。石窯にはひとつひとつ“PERSONALITY”があるから。ここの窯は朝から午後までずっと高温を保てて、できあがったものが美味しいですね。僕はプライベートでも窯で料理をします。ピザもチキンも魚も、電子レンジとは火の通りが全然違いますよ」
「HIGH MAINTENANCE」は英語圏だと、「わがままな」という意味でも使われているらしい。そう教えてくれたのは通訳を引き受けてくれた衣美さん。アレンさんの日本語をフォローし、時折、英語で笑いあう。仲睦まじいご夫妻。

なお、炊所の竈も地元の工務店が手がけた特別製。そこで薪火でご飯を炊き、パンを焼くこだわりが火の食堂」というネーミングにつながっている。電化製品の便利さと引き換えに失われた、昔ながらの食べ物の美味しさ。それを再現してくれたのは、和歌山の職人さんたちの技術と情熱でした。

石窯の前でアレンさんと衣美さんご夫妻。衣美さんは通訳まで(多謝!)

アレンさんは和歌山を「MY HOME」と呼ぶ。その思いは、李野さんやスタッフのみなさんも同じではないだろうか。四季の郷公園は、この地域に暮らす人たちそれぞれの知恵や技術が柱や梁となり作り上げられた、大きくあたたかい「家」なのかもしれない。

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