みちする

ひと:
山愛の里を囲む人
農家との相乗効果

2022.12.06

商品を出荷する生産者さんにとって、道の駅はご近所さんであり、ビジネスパートナーでもある。
道の駅の可能性が広がっている時代だからこそ、関わる農業従事者の本音も気になる。
そこで、山愛の里と関係が深い、スーパー農家さんにインタビューしてきた

いずみ山愛の里を取材している中で、「キノシタファーム」という名前に出会った。道の駅の裏にある高台で、巨大なビニルハウスを5つも構えている、かなりスゴいミニトマト農家さんだという。事業主の木下健司(たけし)さんは、生産者からなる道の駅の協力会で役員を務めてきた方。常に新しいアイデアを提案しながら、山愛の里と近隣の農業を盛り上げるために、全力を注いでいるのだとか。生産者から見た道の駅の魅力と可能性を知りたいと思い、お話をうかがった。

木下さんの成功の秘訣にはメディアも注目。テレビで姿を見たことがある人もいるのでは?

「通年でこだわりを持ち、ミニトマトを栽培している大阪の農家は数えるほどしかいません。ひょっとしたらうちだけかもしれませんね」
自信にあふれる言葉通り、取材で訪れた設備のすごさがすべてを物語っていた。キノシタファームはビニルハウスはもちろん、空気を循環させるためのファン、すべての苗木とつながっている給水パイプなど、贅沢なまでの設備がそろっている。3人の社員さんと、6人のアルバイトさん(取材時点)を抱えながらそれでも収穫しきれないほどの、大量のアマメイドが年中実る。質と量がともなったミニトマト栽培は、キノシタファームの大きな強み。この大量生産のシステムで、年間を通してのトマト狩りを受け付けている。

バッグ栽培という手法。すべてのトマトを有機肥料のバッグに直接植えることで、土に頼らず、通年での生産を実現させている。
こうした努力と創意工夫が実り、2008年に脱サラして就農した木下さんは、あっという間に関西を代表するミニトマト栽培者になった。糖度8(通常のミニトマトは6ほど)を超えるフルーツトマト「アマメイド」はメディアでも広く取り上げられ、全国に名を轟かせている。

バッグ栽培のミニトマトは水量や温度まで考え抜かれて育てられている。

山愛の里に並ぶアマメイド。袋には木下さんの顔写真。

多いときでは1列で1日100キロを超えるアマメイドが収穫されていく。

しかし、なぜ和泉市で農業を始めようと思ったのだろう?
「就農するときから観光農園をしたいと思っていたので、選べる土地は限られていました。道の駅のそばならお客さんに思い切りトマト狩りを楽しんでもらえると思ったので、(ここで農業をするのが)やりやすいと思いました」
もともと実家も大阪府内で農業を営んでいたという木下さん。「大阪で農業をする」ことへの誇りは人一倍強い。地場の生産物を提供する、道の駅との関りにも積極的。
「お客さんから『木下さんは道の駅に出荷しないんですか』と聞かれていたので。自然に道の駅にもうちのトマトを出荷して、関わるようになっていきました。山愛の里もリニューアルしてしっかりお客さんを呼ぼうとしているので、生産者としてうちもモノを売っていきたいじゃないですか。だからいろいろな提案はさせてもらっています。実現が難しいときもあるけれど」

生産者である木下さんにとっての、道の駅の魅力は何なのだろう?
「単にスーパーでトマトを買うだけだと、モノを消費して終わるじゃないですか。でも、山愛の里なら近くにうちの畑があります。今はモノ商品よりも、コト商品、トキ商品って言われ始めていますよね。消費者さんがうちのトマト狩りにも来て、『やっぱりキノシタファームはいいな』って、コトとトキを消費してもらえるのは、道の駅に出荷しているからだと思うんです。そして、トマト狩りをやっていないときには、『じゃあ、道の駅でトマトを買おう』」と思ってもらえる。そうやって相乗効果でうちの集客につながるなら、道の駅とコラボする価値はあります」

上部のファンで空気を循環させて細かく温度調整をしている。

これから、道の駅とどのような挑戦をしてみたいですか?
「観光農園もそうだし、山愛の里とはこれからもお互いにいい意味で利用しあっていきたいですね。せっかく道の駅の隣にうちがあるんやから、キノシタファームをどんどん使ってほしいです」

共存共栄としての道の駅とのコラボレーション。木下さんは企業での営業職経験から、「当たり前のこと」として、「生産物を売るため」の農業のやり方を模索してきたという。がむしゃらに働く中で木下さんが編み出した方法は、まさに「プロダクトマーケティング農業」ともいうべきスタイル。市場と流通を見据えた戦略が現在につながってる。
現代の農業はブランディングやECビジネスなど、新しい時代に突入した。農業の大きな転換期に、道の駅と生産者はどのように絆を深めていくのだろうか。木下さんと山愛の里の関係は、これからの道の駅を通じた地域創生の手がかりになるかもしれない。

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